ウェブショッピング
尾道郷土菓・ふなやき

尾道の「ふなやき」
中屋本舗/専務・前田博徳
 尾道では、毎年旧暦の6月1日(2011年は7月1日です。)に「ふなやき」を食べると夏病みをしないという言い伝えがあります。尾道の「ふなやき」は、小麦粉を水で溶き、極少量の塩を加えてクレープ状に薄く鉄板で焼き、真ん中に丸めた餡をのせ、くるりち巻いて少し平たくしたものをいいます。

 「ふなやき」には古い歴史があり、一説には、菅原道真公が九州へ下る途中、尾道に立ち寄られた際、献上したのが「ふなやき」であったともいわれていますが、定かではありません。
時代は下って安土桃山時代、あの千利休さんの茶会を記録した「利休百絵記」に、茶菓子として「ふのやき」が度々登場します。88回中、実に68回の茶会に使用されています。「ふのやき」は「ふなやき」同様、薄く焼いた皮の片面に味噌を塗り、巻いただけの素朴な焼菓子だったと思われます。この時代、茶菓子といえば木の実、果物、昆布などが主流だったことを思えば、この「ふのやき」は、一手間掛けたワンランク上の茶菓子です。多分、千利休さんが自ら水屋で焼いて、出来たてのほかほかが提供され、冬の茶席の何よりの御馳走だったかもしれません。「ふのやき」は後に「麩の焼」として書物に登場してきます。

 「麩の焼」は、江戸時代貞享元年(1684)成立の『雍州府志(ようしゅうふし)』や享保三年(1718)刊の『古今名物・御前菓子秘伝抄(ごぜんかしひでんしょう)』、文久二年(1862)刊の『古今新製・名菓秘録・二編』などの菓子製法本には、大体同じような製法で載っており、巻いた中身も山椒味噌をぬって、刻んだ胡桃、白砂糖、芥子の実などを加えるなどして変化していき、江戸時代を通じて一般的な菓子として親しまれていたことが分かります。
 尾道の「ふなやき」も原型はこの「麩の焼」と思われますが、何故名前が違うのか、あるいは言葉が訛って変化したものか分かっていません。以前に何かの本に、この「ふのやき」は「舟尾やき」とも書くと載っていました。

 ところで、「ふなやき」は尾道だけに残って存在しているものではないのです。私が知っているだけでも、九州の筑後川流域の柳川・大川・久留米と筑後・八女地方、鹿児島県の与論島、奄美地方、滋賀県の八日市の各地にあるようです。
これらに共通するもの、それは水運です。川であり、海であり、そして港です。つまり「船」なのです。インターネットで九州のあるガス会社のホームページの料理レシピの欄に、次のように書いてありました。
【その昔、九州で一番大きな川・筑後川流域には、荷物や人を運ぶ為に多くの船が交通手段として使われていた。船で働く人々は午後3時か4時になると少しお腹が空いてくるため、船の上で七輪を置き、鉄板をのせ、やわらかめに溶いた小麦粉をクレープのように薄く焼き、黒砂糖をくるんで食べた。船の上で焼くので「ふなやき」という。】「ふなやき」の名前のルーツは、単純明快!実に分かり易いです・・・?

 さて尾道以外の「ふなやき」は、この他にも粗く刻んだ黒砂糖を生地の中に入れたり、同じく刻んだ高菜や紫蘇を生地に混ぜ込んだ、正に「おやき」の様な「ふなやき」が一般的な地方もあります。しかし、尾道の「ふなやき」は、生地は淡い塩味だけで何も混ぜず、餡玉だけを巻いています。ここが、尾道以外の「ふなやき」と大きな違いです。

 では、尾道の餡玉巻いた「ふなやき」は、日本全国、何処にもないのでしょうか。いえありました。但し、十七世紀の江戸時代に似たようなものが。
当時、江戸名物として有名だった「助惣焼(すけそうやき)」です。江戸麹町三丁目の橘屋佐兵衛が売り出し、それまでの「麩の焼」より美味しく上品で、大変な評判だったそうです。『続・江戸砂子(えどすなご)』  形は尾道の「ふなやき」のように餡玉を巻き、さらに、両端も折り込んで、四角にに畳んでいたようです。また、東京赤坂に本社がある、羊羹で有名な虎屋様の記録によると、寛成五年(1793)の五月、後桜町上皇御所へお届けした「麩の焼」には、御前餡(漉し餡)を入れて巻いてあったそうです。

 ということは、餡入りの「ふなやき」が一般に市販され、季節になると食べられるのは、いずれにしても尾道だけということになりそうです。しかも、やんごとなき方々に献納されたのと同じような「ふなやき」が。

菓子屋でなくとも、この素朴で伝統ある尾道郷土菓「ふなやき」が、いつまでも市民の皆様に愛され続けていくことを願って止みません。そして最近、お隣の大韓民国にも、「ふなやき」があるのを知りました。「プンオパン」といって、中に餡が入っています。何と日本の「鯛焼き」とほとんど同じです。プンオが鮒の意味だそうですので、正確に記すなら、「鮒焼き」とすべきでしょうか。


【参考文献】
『古今名物・御前菓子秘伝抄』 書林水玉堂
『古今新製・名菓秘録 二編』 澤田文榮堂
『和菓子ものがたり』 中山圭子著 新人物往来社
『近世菓子製法書集1・2』 鈴木晋一・松本仲子共著 平凡社
『菓子の文化史』 赤井達郎著 河原書店

2011年6月17日(金)午前11時30分よりNHK総合の番組「ひろもり」で尾道の和菓子「ふなやき」が紹介され、弊社の専務取締役前田博徳が尾道のふなやきについてご説明をさせていただきました。


Copyright(C) 2004 nakaya-honpo co.,ltd. all rights reserved